2017年度蔵見学会

2017年3月18日(土)

広島県酒造組合では、毎年新酒の仕込みの時期に広島県の蔵元を訪ねる「蔵見学会」を実施しています。今年は2月11日(土)の賀 茂泉酒造(東広島市)からスタートし、賀茂鶴酒造(東広島市)、亀齢酒造(東広島市)、三宅本店(呉市)、藤井酒造(竹原市)の5つの蔵で行われました。この中から、3月18日(土)に行われた藤井酒造の見学会の様子を紹介します。
藤井酒造は情緒豊かな竹原の町並み保存地区の一角にあり、「龍勢」「宝寿」の蔵元として知られています。創業は江戸末期の 文久3年。現在も当時の建物で伝統的な「きもと造り」を再現するなど、自然と共に醸す酒造りに取り組んでいます。
蔵の一部は「酒蔵交流館」として開放されており、酒造りの道具の展示や工芸、民芸品、関連グッズなどの販売、お酒の試飲と販売を行っています。また、「手打ち処 たにざき」も併設しているので、本格的なそばと藤井酒造のお酒も堪能できます。今回の酒蔵見学は12名。昨年のお酒テラピーに参加された方もおり、「藤井酒造」の見学を心待ちにされていたようです。女性限定ではないのでカップルや男性のグループの方もいらっしゃいました。
当日のスケジュールは、5代目蔵元の藤井善文さんの案内で蔵を見学し、陶房「山法師」を構える田部光二先生と奥さんのご指導の下、Myぐい呑みつくりに挑戦。場所を移動して書道家の鴨山友絵先生を講師に迎えてハガキの書道を楽しんだ後、「たにざき」でお酒と食事を楽しむという大変充実した1日となりました。
蔵見学へ
藤井酒造の酒蔵は創業以来の江戸末期の建物。釘を使わず木の湾曲を使って組み立てた造りが特徴的です。
まずはお酒の原料となるお米についての説明がありました。藤井酒造では全量酒造好適米といわれるお酒専用のお米を使っている そう。これは一般のお米と違い、外が硬く中が軟らかいので、麹菌が中に入りやすいとのこと。洗米も「細かく分けて洗うほど水分をしっかり吸いますが、吸いすぎもいけません。吸いすぎるとべたつき、吸わないと蒸し上がってもお米のデンプンが糖分に変わってくれません」と藤井さん。原料となるお米を洗う時にも細心の注意がはらわれていることが分かります。続いて酒造りで重要といわれる蒸しは、「蒸し上がりのタイミングは人間の嗅覚です。最初は生っぽい香りですが、蒸し上がると香ばしくなる。その香ばしくなった瞬間が最適です」とのこと。酒は生き物だとつくづく感じさせられました。「麹室」に行くと、ふわっとした甘い香りが広がります。乾燥させている麹も試食しました。噛めば噛むほど口の中に甘みが増して、これがどうお酒に変化していくのか楽しみですね。
きもと造り
続いて小さなタンクがある「酒母室」へ。藤井酒造では、酒造りの中でも伝統的な「きもと造り」という製法に取り組んでいます。通常のお酒(速醸系)は酒母をつくる時に乳酸と酵母を加えますが、「きもと造り」は微生物や乳酸菌を自然の中から取り込み、乳酸を自然発生させ酵母が住み着いたものです。きもと造りは米や米麹をすりつぶす「山卸」と呼ばれる重労働や細かい温度管理などが必要で、速醸系より三倍以上の期間がかかるそうです。さらに自然が相手なので失敗する危険もありますが、手間隙かけた分だけ、キレとコクのある奥深い味わいのお酒が完成します。「自然と対話して醸した酒を造りたいと、平成18年から酵母も無添加の生粋のきもと造りに取り組んできて、10年たって安定した酒ができるようになりました」と、酒造りに対する藤井さんの情熱に皆さん真剣に聞き入っていました。
続いて「もろみ蔵」へ。ここでは麹の働きによりデンプンが糖分に変わり、それを酵母が食べてアルコール発酵させる並行複発酵が行われています。ハシゴを登ってタンクの中をのぞきこむと、白い泡がブクブクと盛り上がっています。香りもよく、もうお酒の完成も間近です。
蔵見学では一つ一つの丁寧な作業とこだわりを通して、藤井酒造の酒造りへの信念を感じることができました。「酒」は生き物だなと実感すると同時に、それにしっかり寄り添いながら醸していく酒造りに感動をおぼえました。
ぐい呑み作りと書道
蔵見学を終えた後は、田部先生のご指導の下、ぐい呑みを作ります。「もう少し薄く」などと先生のアドバイスを受けながら出来上がったぐい呑みは十人十色。平型や筒型、ハート型のものも。釉薬の色の希望や印をつけて預けた後は焼き上がりを待つばかりです。5月頃に手元に届くそうなので、手作りのぐい呑みでお酒を飲む日が今から待ち遠しいですよね。
次は近くの初代郵便局跡の上吉井家住宅に移動して、書道に挑戦です。講師の鴨山先生は参加者がほろ酔い気分で思いを記す「酔書」と名付けたイベントを開催している書道家です。皆さんまずはお酒を一杯飲んで緊張もほぐれたところで、先生から「空白も大切です」などとアドバイスを受け、ハガキに宛先を書いた後、裏側に早速筆で創作へ。「SAKE」「酔」「笑」などそれぞれの思いを筆に乗せて表現していきます。デザインや字体も個性豊かで、お互いのハガキを見せ合い「いいねー」などと笑顔が広がります。作品を手に一同で記念撮影。ハガキは投函して後日手元に届きます。
「たにざき」で懇親会
最後は蔵に併設している「たにざき」で藤井さんや講師の田部さん夫妻を囲んで懇親会が開かれました。最初に藤井さんから「責め」と呼ばれる部分だけを集めて造ったお酒「龍勢」を楽しんでくださいと挨拶があり、「龍勢 番外品 蔵元遊び酒」で乾杯。鯛の刺身やカモ鍋など日本酒に合う料理とともにお酒も進みます。このお酒は冷だけでなく燗でいただくと「まろやかー」と歓声が。さらに鍋に入れたそばも味わい「夜の帝王」や5年熟成のお酒など数種類のお酒の飲み比べも楽しみました。今日初めて会った人ともすっかりうちとけ、盛り上がるなか懇親会も終了。最後に藤井さんから田植えツアーの案内があり、早速行きたいという希望者も。皆さん日本酒の魅力にますますはまる1日となりました。
「酒造りの現場で説明を聞いてこだわって造っていることが良く分かった」「いろいろ充実して面白かった」と皆さん大満足の1日で帰路につきました。今日の体験がこれからの日本酒ライフをより充実させてくれるでしょう。